毎年8月になると戦争特番が放送されています。今年は、20年にわたるアフガニスタン戦争の末、アメリカが撤兵した直後にタリバンに政権を奪われるというニュースも合わせて駆け巡りました。
国際情勢は、歴史背景を知ってこそ今何が起きているかが理解できると思います。
普段あまり真面目にテレビを見ることはないのですが、たまに本気で制作された番組に唸らせられることがあります。その一つが、NHKの「映像の世紀」という番組です。この番組が放送されたのは2015年10月、半年間6回に渡る放送は秀逸な番組として記憶に残っています。
映像を記録できるようになってからちょうど100年、映像を使い戦争に明け暮れた20世紀の記憶を呼び覚ます番組です。
この番組の続編が今も4ヶ月に一度ほどのスピードで放送されていることを知り、NHKオンデマンドを登録して再度見直しました。自粛生活が求められる終戦の8月にはもってこいの題材です。歴史の勉強になるのでおすすめです。
今回は2015年に放送された6回の番組の概要と、感想を書いていきたいと思います。
百年の悲劇はここから始まった
ヨーロッパが戦場となった第一次世界大戦が舞台です。誰もが長引くと思っていなかったが結果的に5年にも及び、1000〜2000万人という過去例を見ない夥しい死者数を出す総力戦でした。
科学技術の発展で、自動装銃、毒ガス、航空機が導入され、果てしない塹壕戦となりました。
戦勝国のイギリスやフランスですら国内は荒れ果て、国家予算の5倍以上のお金を使ってしまったこの大戦で、敗戦国ドイツは国家予算の20倍以上の賠償金を負わされ二度と復活できないよう徹底的に叩かれます。そしてそのことが憎悪を生み、次なる大戦の火種となっていきます。
この回で私が印象に残ったのはオスマン帝国をめぐるイギリスの諜報活動です。敵国ドイツ同盟国のオスマン帝国を倒すため、イギリスはアラブ文化と現地語に精通したローレンスを送り込み、ムハンマドの血を引くと言われるファイサルに対して「アラブの国を作る」と焚き付けて武装蜂起をさせました。アラブの国という理想に燃えたアラブ人たちはオスマン滅亡を成し遂げます。
しかしイギリスはフランスとオスマン帝国領土南北で分ける約束をしており、アラブ人が住むパレスチナにはユダヤの国を作ると資本家の多いユダヤ人に約束をしており、ファイサルとの約束を反故にします。ファイサルと彼を信じて付いてきたアラブ人民族を思うと言葉がでません。中東が火薬庫のように火種を抱えてしまったその根源がここにあるのでした。
グレートファミリー 新たな支配者
第一次世界大戦後のアメリカにおけるの資本主義の発展がテーマです。戦場にもならず戦勝国だったアメリカは空前の好景気を迎え、ロックフェラー、フォード、エジソン、モルガンといった巨万の富を築くファミリーを生み出していきます。金融が発達し、加熱した信用取引がバブル、そして世界恐慌を引き起こします。恐慌とはいえ、富めるファミリーは上手く売り抜けたり、下がりきったところで青田買いすることで損失を回避に成功します。
こうした富めるものは更に富み、貧しいものはさらに貧しくなるという構図が貧しい人々の反対運動を呼び、その中で社会主義へ傾倒する動きがアメリカの中にも出てくのです。
行き過ぎた資本主義が格差を生み、反動で社会主義へ傾倒するという動きは今に通ずるところがあるように思います。歴史は繰り返すのか?昨今は民主社会主義という新しい動きがアメリカを中心に起こっていますが、必要な生活剤が少数の人々でまかなえ、ビジネスがその役割を終えつつあるこの原題では違った結末に向かうのかもしれません。
印象に残ったのは、大戦中ウクライナで迫害されたユダヤ人の多くがアメリカに渡り、隙間産業としての映画に目をつけ、エジソンの特許料追及を逃れられる西海岸に逃げた結果生まれたのがハリウッドだったという点です。
時代は独裁者を求めた
ヒトラーを中心として描かれた第二次世界大戦がテーマ。第一次世界大戦の敗北により徹底的に叩かれたドイツは、ハイパーインフレになり貧しくなり、復讐心を煽るヒトラーに隙を与えてしまいました。共産主義かファシズムかという悪魔の二択を迫り、結果的には民主主義のルールを冒さず、全権委任法を成立させる形で独裁政治を実現したのでした。最初は公共事業を大々的に行って経済成長によるGDP成長が実現し、圧倒的な支持率を誇りました。そしてその勢いのまま戦争に突き進み、責任転嫁の虐殺を行い、敗戦が濃厚になっても戦い続け破滅していきました。
このエピソードを見ていると、売れない画家から、一兵卒、そして国のトップにまで上り詰めたヒトラーは相当優秀なように見えます。この回には描かれてませんが、実は経済成長がヒトラー就任直後に起こったのは前政権が仕込んだ種が花開いたからだったり、運が良かっただけで能力が高かったわけでもないとする人もいます。
生々しい映像が、常軌を逸したホロコーストの実態を見せてくれます。
世界は秘密と嘘に覆われた
アメリカとソ連の謀略戦・冷戦がテーマです。アメリカ政権内にソ連のスパイが入り込み、政権内には猜疑心が蔓延りました。ソ連は原爆の技術を盗み、見事にその開発を成功させます。第二次世界大戦後、敗戦国ドイツが誇ったV2ロケットの技術を狙って両国は技術者の囲い込みの争奪戦を展開し、これが両国に核爆弾をミサイルで打ち込むという最終兵器をもたらします。
イギリス支配下のイランでは、モサデクが石油利権の奪還に成功します。しかしモサデクの背後にいるソ連に石油が渡ることを警戒したアメリカは、CIAの秘密工作であっけなくモサデク政権の転覆に成功します。そして4割の石油利権を握るのです。アメリカはこれに味をしめ、世界各地で工作活動に勤しみます。
ベトナム、アフガニスタン、中米、アフリカ、世界各地で米ソの代理戦争が行われ、その度に武器がばら撒かれ、憎しみの種が植えらていきました。
若者の反乱が世界に連鎖した
1960年代の若者たちの反乱、世界中の若者繋いだのはテレビでした。
リアルタイムで報道を通じて経験する初の大戦争となったベトナム戦争、アメリカ・フランス・ドイツ・日本と世界中の若者が講義の声をあげます。彼らの理想の先にいたのは、わずかな人数の若者が高潔な思想を掲げて政権を倒したキューバ革命と、貧しいものこそ英雄、そう説いて6億の農民を率いて社会主義国を打ち立てた(と欧米では考えられていたが実態は独裁者の)毛沢東でした。
ベトナム戦争は「テレビに負けた戦争」と言われました。そして若者の反乱のうねりはベルリンの壁崩壊と各地の社会主義政権の崩壊による民主化の促進と、民主化を弾圧した天安門事件による中国の共産党一党支配の社会主義という、2つの真逆の結末に至るのでした。
あなたのワンカットが世界を変える
ラストは、様々な歴史的ワンカットを集めた番組です。動画の影響力がより強くなりました。
- 今に続くテロとの戦いのきっかけとなった「9.11」
- リアルタイム性という観点で一般の人が撮影した映像が報道で使われるようになる契機となった、スマトラ沖地震による津波
- 同性愛者たちの投稿「it gets better」の広がりが同性婚の合憲に繋がった
- 抗議の焼身自殺の動画がもたらした「アラブの春」
- トルコの海岸に打ち上げられたシリア難民の子供の遺体はヨーロッパ各国に難民の受け入れを促した
動画技術が犯罪検出の迅速化にもなれば、犯罪組織の効果的なプロパガンダにもなり、「Happy」を代表に人と人とをつなぐきっかけにもなれば、テロの驚異からイスラム世界との断絶も生みました。
今回は「映像の世紀」というNHKの傑作番組を取り上げました。なかなか暗い番組ですが、歴史の勉強になるのでぜひおすすめです。
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