電力やガスのネットワークは社会の隅々までエネルギーを行きわたらせる役割を担っています。これらのインフラは「グリッド」と呼ばれ、エネルギー転換を進める上では要となる存在です。同じグリッドであっても、電力とガス(都市ガス)とでは大きくことなります。
今回は都市ガスに注目し、電力と比較しながらその特徴を掘り下げていきます。脱炭素化に向けた未来において、CO2を発生するガスは不要なのか?切り札のメタネーションとは何か、なぜ解決策になりうるのか見ていきます。
電力とガスのネットワークは全く違う
ガスパイプラインもエネルギー供給のための基盤として重要です。日本には、全国規模のネットワークはありませんが、ヨーロッパはでは天然ガスの生産地から直接パイプラインで国境を越えてガスが供給されています。
インフラネットワークという観点から電力とガスを比較すると随分大きな違いがあることがわかります。
簡潔にポイントを抜粋すると
- ガスの市場規模は電力の約1/3
- 都市ガスの普及率は半分ほど、LPガスと電力が競合になる
- エリアごとの寡占がなく、200もの中小事業者がひしめき合う
- 安全性の感度が電力より遥かに大きい
確かに安全性については、電力の場合、電線が切れても停電で済みますが、ガスの場合はガス漏れですのでその感度は大きく違うことが想像できます。
以下の地図を見ても、いわゆる太平洋ベルトのラインと、北陸から東北にかけてだけガス網が整備されていることがわかります。
都市ガスとプロパンガスの違い、それぞれの流通方法と規格化方法
電力においては、送電に置いて「電圧」が重要でした(以下参照)。ガスを送る場合には、重要になってくるのは「熱量」です。
ガスと一口に言っても実は色んな成分があります。都市ガス(天然ガス)の主成分はメタンですし、プロパンガスの主成分はプロパンです。その化学式、つまり分子毎にいくつのC(炭素原子)が結合しているかという点が異なるのですが、この違いが、体積あたりの熱量の違いをもたらします。
熱量が大きく変わるとガスを使う機器の動き方が変わってしまいますし、安全性にも影響があります。ガスは地下から採掘して取り出すのですが、実は産地によってこの熱量というものが違うため、ガス会社がそれぞれ熱量を調整して需要家に供給を行っています。
熱量から見た、都市ガスとプロパンガスの違い
日本で一般的な都市ガスは13aと呼ばれるタイプのもので、熱量は46MJ/m3です。主成分のメタンはCH4という炭素原子一つの構造です。
一方でプロパンはC3H8と3つの炭素原子が結合した分子構造を取っており、プロパン100%のプロパンガスは99MJ/m3と2.2倍の熱量があります。これはつまり体積あたりのガスの価値としてプロパンガスの方が高いということになります。
加えてプロパンガスの方が、比重が重いため常温でも加圧することで液化します。液化することで体積は1/250になりますので、輸送が非常にしやすいというメリットがあります。実際ガス漏れしたときの挙動も異なり、空気より軽い天然ガスは上に行きますが、空気より思いプロパンガスは下に溜まります。
※なおプロパンガスにはブタン(C4H10)も含まれています。
ガス田から採掘されるガスには双方が含まれた状態であることが一般的ですが、付加価値の高いプロパンガスは分離して別ルートで販売されています。そして液化しやすいプロパンはガスボンベを主体とした流通を、極低温でないと液化できない天然ガスはLNGタンカーとガスパイプラインという形で流通しています。
都市ガスの規格化、熱量バンド制
熱量がバラバラなガスを混ぜて販売してしまうと機器が対応できません。ガスコンロを買う場合もガスの性質に合った機器を買う必要があるわけですが、熱量をある幅に収めるように規格化することによって、ガス会社間のガス管を連結させたり、色んな成分のガスを混ぜられるようになったりという効果があります。
熱量バンド制:ガスの単位体積当たり熱量の標準値(毎月の算術平均値の最低値)を定め、熱量の変動を制限する仕組み。調達リソースの多様化、熱量調整設備のコスト抑制、導管の相互接続による供給安定性の向上といったメリットが見込まれる。
東京電力エナジーパートナー株式会社「熱量バンド制導入の必要性について」
以下は実際に熱量バンドを広げた場合に、どんな影響が生まれるかというのを調査した結果です。性能・安全性・製品品質といった観点から影響が調査されています。
いわゆるコンロなどの燃焼機器に関しての安全性はあまり影響無さそうですが、そのほか性能や品質面での影響は避けられないように見えます。
±2%程度の幅に収めた上で、空調機は空調機の機器側が調整するような形で業界全体として制度化の方向に動く必要がありそうです。
脱炭素化に向けたガスのあり方
カーボンニュートラルに向けて、ガスはそのあり方自体を大きく変えていく必要性を迫られています。ガスは燃やせば二酸化炭素が出るため、カーボンニュートラルは致命的なのですが、一体どういった方向性に向かうのでしょうか。
カーボンニュートラルにおけるガスのあり方の変遷
カーボンニュートラルについては以下の記事でまとめています。
天然ガスを主体とする現在のガスのあり方がどう変わっていくのか、ということを表したのが下図になります。一気に変化させることはできないので、以下のような変遷をたどっていくことになります。
- 天然ガスを燃焼することによって発生するCO2を分離回収することで大気へ排出しない(CCUSの活用)。天然ガスを使用することにより発生するCO2排出量を、クレジットを活用してオフセットしたカーボンニュートラルメタン(CN)の活用
- 再生可能エネルギー由来の水素(ブルー水素)もしくは、CCUSによって発生したCO2を分離回収して生成した水素(グリーン水素)を使ってメタンを製造し(メタネーション)、天然ガスを代替
- 水素やアンモニアの直接利用の割合を高めていく
再生可能エネルギーが普及していくと、再生可能エネルギーが発電しない時間帯においてどうやってエネルギーを賄っていくのかということが課題になります。また、電化を進めたとしても電気では補えきれない分、すなわち天然ガスが必要な領域が存在するため、カーボンニュートラルな世の中になっていく中でもガスは必要不可欠です。
既存のガスインフラを活かせる切り札、メタネーションとは
ガスの流通に対する影響を考えると、流すガスが、都市ガスからメタネーションによって製造された合成メタンに変わっていくということになります。その先には水素が流れる未来が待っているかもしれません。しかしここで重要になってくるのが「熱量」です。
今話題に上がっているガスの熱量を比較してみます。
- 都市ガス:46MJ/m3
- 合成メタン:40MJ/m3
- 水素:12.8MJ/m3
水素社会というものを考えたとき、既存の都市ガスの流通網を使って水素を流すことができればインフラ整備にかけるコストを小さくできるのですが、現在の都市ガスの1/3の熱量しか無い水素を流すのは現実的ではありません。
そこで注目されているのがメタネーションです。メタンの合成方法を複数あるのですが、一般的に語られるCO2と水素H2を合成する方法では、削減対象であるCO2を使用することができますし、合成メタンは都市ガスに近い熱量のため扱いやすいというメリットがあります。
そのため水素社会への移行過程としてはメタンをガス導管に流していくという方向性に向かっています。近いとはいえ、合成メタンの熱量は既存の都市ガスとは乖離があるため、熱量バンドを拡大スル必要があり、その影響度や方策が議論されて進められているところです。
欧米のパイプライン
海外の動向はどうでしょうか。ドイツでは余った電力を水素やメタンなどに変換して(Power to Gas)、パイプラインに一部混ぜることも実は行われています。
欧州は国を跨いだガスパイプライン網が構築されているのですが、これはロシアの天然ガスや北海油田を欧州諸国が国を跨いで共有しているからです。
ドイツで既に水素がパイプライン流せているのは、先に挙げたバンド幅が広いからできるようです。
日本はそもそも石油・天然ガス資源が国土に無いので、ガスパイプラインが発達しなかったのだろうと思いました。
分散化&脱炭素化時代のガスの在り方や如何に
再生可能エネルギーが普及していくという今後の社会では、電源が分散化していきます。それでも電力網は全国津々浦々まで整備されているため、こうした分散電源化の社会においても既存の電力インフラを活用していくことが基本になります。
しかしガスの特徴は、もともと都市ガスのネットワークが脆弱で、多数のプロパン事業者によって流通網自体がそもそも分散化している点です。このときプロパンガスがどうなっていくかということを考えると非常に厳しい未来が待っているように思えます。
電化が難しくガスが必要とされる分野は合成メタンに代替されていくでしょう。一方で新たにメタンを合成し、流通させて行く過程では新しい事業者が必要になってきます。その先に水素社会では一体どのようなインフラシステムになるのかも見えていません。既存のガス事業者にとっては変革が迫られていますが、エネルギーの需要自体がなくなるわけではなく、いち早くカーボンニュートラルな社会におけるインフラのバリューチェーンに入り込むことが大事だと思いました。
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