人事とはメッセージ
スタートアップでメンバーが少ないときは、実質的に役職が存在しません。名前として部長やCXOという名前がついているかもしれませんが、階層構造ではなくフラットな状態からスタートします。
組織が拡大していくと、ピラミッド型・階層構造の組織に基本的にはなっていきます。こうなってくると「なんでこの人がこの部門のボスなの?」という不満が裏で出てくることもしばしばです。
人の評価というのは、どんな組織でも課題で、スタートアップに限らず、どこまで行っても主観の要素が強く残り、全員がハッピーというのは極めて難しいと思っています。
加えてスタートアップの場合、事業を立ち上げている段階だと、まだ成果と呼べるようなものも出ていない場合も少なくなく、よりその妥当性を社内で示すことが難しいです。各々が担当分野をプロとして動くので、他の人が評価しにくいということもあります。
多くの社員が認める人が昇進・昇給していくというのが理想的だと思いますが、そうではない人が昇進・昇給していく場合は不協和音を生んでしまいます。ここでポイントなのは、その人が何を体現しているのかということです。
- ポジティブなケース
- 多くの社員に優秀・成果を上げている・会社に貢献していると思われている人
- ビジョン・ミッション・バリューを体現している人
- ネガティブなケース
- イエスマン・上にいい顔する人
- 年功序列
敢えてポジティブ・ネガティブと書きましたが、組織によってポジティブ・ネガティブの判断が別れるような内容もたくさんあると思います。いずれにせよ、人事というのは一番のメッセージで、どういう人を経営層が評価し、活躍の場を与えるのか、という本音が否応なしに出ます。
社長が自由闊達で若者が活躍する会社を目指しています、と口頭で言っていたとしても、年齢が高いことと、社長と仲いいこと以外に説明がつかない人が昇進する姿を見せると、「年功序列で社長のお気に入りが出生するんだな」というわかりやすいメッセージが伝わります。
逆に、誰よりもバリューを体現している人を昇進させると、「バリューは口だけじゃない、これを本気でやらねば」という想いを社員に持ってもらうことができます。
役職は実態に即してついていくのが自然ではないか
年長者が年功序列にしたいと思う気持ちを想像し難いものではありません。自分と同じような環境、経験、年齢の人を重用したくなる気持ちは自然でしょう。何十年も大企業で働いてきて、かつ自分の経験に誇りを持っているとしたら、なおさら経験を重視するでしょう。
若い人からすれば、自身にそんなに経験があるわけではないので、経験よりも想いや実力を重視するかもしれません。このあたりは非常に世代間ギャップを感じているところであります。
人の優秀さの判断はやはり判断する人の価値観が出てしまいます。そうなると、経営者が年長者の会社で若手の活躍の機会は多くないかもしれません。
周りがおじさんばかりの中、いくら優秀とはいえ、その人を管理職に上げて果たして組織として上手くいくのか?目上の人を敬うというのは社会の根底にある文化でもあり、そもそも年功序列をひっくり返すのは歪が大きい気もします。
そんなことを考えていたときに、知り合いの方がシェアしたある美容院の方々へのインタビューが本質を捉えていると感じました。
そもそも、役職を与えるという発想が逆だと気付かされました。
本来はある組織の中でリーダーとして振る舞って取りまとめている人がいて、その人にそうした役職をつけていく、というのが自然なのだと。
年齢も経験も関係ありません。複数人が集まってプロジェクトを進めていくとなれば、自然とその場をまとめていく人が出てくる、その人がマネージャーであり、リーダーなのだということです。
実際にはなかなかそうもあれないのが組織ですが、あるべき姿が見えた気がしました。
フォロワーが生まれて始めてリーダーになる
私が好きな本に、「リーダーシップの旅」という本があります。ここではリーダーについて次のように書かれています。
多くの人とは違う何かを感じ取って行動を起こした人が結果としてリーダーと呼ばれるようになったのではないだろうか。
リーダーシップとは人を巻き込み、自発的に動いてもらう、フォロワーを、生み出すプロセス。
リーダーは最初からリーダーだったわけではない、フォロワーが生まれて始めてリーダーになる。裏を返せば、フォロワーなくしてリーダーになると、なる方も辛い。ここには人事における本質がある気がします。
P.S. 『リーダーシップの旅 見えないものを見る (光文社新書)』 野田智義
メモを抜粋
- リーダーとは
- リーダーを目指してリーダーになった人はおらず、多くの人とは違う何かを感じ取って行動を起こした人が結果としてリーダーと呼ばれるようになったのではないだろうか。
- 偉大なリーダーとは、自分の夢を皆の夢であるかのように言い換えられる人だ by 二ティン・ノーリア
- リーダーシップとは人を巻き込み、自発的に動いてもらう、フォロワーを、生み出すプロセス。
- マネジメントとは
- 目標達成のため手順を組み、経営資源を配分して進捗を監督すること。上位にいる人が下位に位置する人を統率し、組織化すること。
- 下位の人は自主的について来ているわけでは無い。
- リーダー教育の誤り
- 組織、会社を強くするためにリーダーを育てようとしても、上手くいかない。
- 個人が会社を舞台にどうやったら羽ばたけ、社会に対して価値をもたらしうるか、その視点でのサポート。これが結果的なイノベーションを世に送り出せる企業を作る。
- リーダーシップを取れるようになった人がTPOV(Teachable Point of View)を語り、仕事の一部を後進に任せることで次のリーダーが育つ
- 原動力と信頼
- 何より信頼が大事。本当にやりたいことが見えてくるのは一定の年齢に達してからで、そこでリーダーシップを発揮するためには信頼の土台が必要。
- 何より信頼が大事。本当にやりたいことが見えてくるのは一定の年齢に達してからで、そこでリーダーシップを発揮するためには信頼の土台が必要。
- 信頼の呪縛
- 何かを守る手段だったものが守るべきものになり、それ自体を問う気持ちが薄れるにつれて、いつしか自分を縛る足枷に変わっていく。貯めた信頼も同じで、捨てられなくなると人は旅への一歩を躊躇する。
- 本当にやりたいことへの思いとの葛藤があり、痛みを感じつつ選択する感覚が必ず伴う。
- 信用を勝ち取りながら自我を押さえつけたダースベイダーと、旅に出たルークの違い。
- 夢
- 夢なんか実現しっこないという人もいるが、実は夢しか実現しない by Culture Convenience Club (TUTAYA)社長 増田宗昭
- 夢なんか実現しっこないという人もいるが、実は夢しか実現しない by Culture Convenience Club (TUTAYA)社長 増田宗昭
- 不毛な忙しさ Active Non-Action
- 企業の中核として必要ともされ、それなりに充実感もある。忙しいと自分で思うし時に人にもそうこぼす。
- 毎日多忙にも関わらず、本当に必要で意義があり、真の充足感をもたらす何かは全く達成できていない状態。
- 行動しているように見えて実は何の行動もしてないという危険な落とし穴。
- その結果、新しいものを創出する機会や、変革のチャンスが見つかっても意識的に目を背け忙殺を言い訳にしてしまう。
- 「忙しいから絵が描けないのではなく、描けないから忙しいだけだ」
- 轍
- キャリアとは「たった一回限りの自分の人生を運ぶもの」でたり、馬車が去っていった後の轍のようなもの。
- その足取りを内省してこそ、これからどう歩むべきか将来を展望できる。
- どうしてもここだけは犠牲にしなかったという部分が拠り所、「キャリア・アンカー」である可能性があり、夢を描くきっかけが見つかるかもしれない。
- キャリア・アンカーが変わるのは自然で、それは年齢・経験により、今まで知らなかった自分に気づくから。
- 人間力
- リーダーが、この人ならついていきたい、と言ってもらえる人であるか、それは魅力的な人間であるか、すなわち人間力次第。
- 人間力を磨く上で大切なことは、「人の営みに対しての理解と尊敬の念をもつこと」
- そのためには教養が必要で、人間の英知に触れるのが良い。
- 利他の心
- 本当に何かをやりたいと思う時、周囲の人は協力を惜しまない。そして協力を得ると、心境の変化が訪れ、自分が前に進めるのはサポートしてくれる人たちのおかげだという気持ちが湧く
- 己と他の境界が曖昧になり、利己と利他が一体化、自分の夢がみんなの夢になる。
- リーダーの責任
- Remember, with greater power comes with greater responsibility. by スパイダーマン
- リーダーが授かったものは努力に対する対価であるだけではなく、歩ませてもらったこと自体がギフトで、もらったものを人に、そして社会へ返す、そんな心構えがあればリーダーシップの旅も貫徹できるだろう。
大企業からスタートアップへ転職した著者が見たリアルについて様々な記事を書いており、以下はそのまとめページですのでぜひ御覧ください(転職について、組織論、マーケティング、ITなど)。
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