地球温暖化は何十年も前から言われてきていますが、世界中で頻発する異常気象の影響もあり、プラスチックごみなどの環境問題を含め昨今盛り上がりを見せています。
そのきっかけとなる出来事は大小さまざまですが、特に脚光を浴びた「アル・ゴアの不都合な真実」「パリ協定」「SDGs」を取り上げたいと思います。
簡単にまとめると、アル・ゴアによる地球温暖化の啓蒙活動、地球温暖化への危機感から生まれた世界全体の解決への枠組み、これと環境に考慮した事業や会社への投資が相まって対策が少しずつ進んでいます。
改めて地球温暖化の定義をおさらい。
太陽から地球に降り注ぐ光は、地球の大気を素通りして地面を暖め、その地表から放射される熱を温室効果ガスが吸収し大気を暖めることで地球の平均気温14℃前後を維持しています 。
近年、産業活動が活発になり、二酸化炭素、メタン、さらにはフロン類などの温室効果ガスが大量に排出されて大気中の濃度が高まり熱の吸収が増えた結果、気温が上昇し始めています。これが地球温暖化です。
全国地球温暖化防止活動推進センター:https://www.jccca.org/global_warming/knowledge/kno02.html
温室効果ガスとして支配的な物質が二酸化炭素(CO2)ということで、温暖化と言ったときにCO2が結びつくということですね。
アル・ゴアの不都合な真実
以前アメリカ副大統領であったアル・ゴア、彼の熱心な環境活動により2000年代から地球温暖化への関心が高まりました。「不都合な真実」と題して映画化、同内容が書籍としても発行されています。
内容は感情に訴えかけるような情緒的な部分も多いですが、データもたくさん出していて、「温暖化は疑いなく進んでいて、その主たる原因はCO2の増加である」ということを説いています。後半は温暖化による様々な悪影響が中心です。
「不都合な真実」のデータは正しいか?
「不都合な真実」に出てくるデータの中で二点疑問に思ったことを指摘しておきたいと思います。
CO2と温度の因果関係は如何に
CO2と温度の関係が高い相関にあるということから、「大気中のCO2が多ければ、気温は上がる」と言っています。ただし、このデータからだけでは、「気温が上がったから、CO2が増えた」という逆の因果の可能性は否定できないと思います。
過去1000年の気温の推移は正しいのか
過去1000年間の温度の推移を示したグラフがあり、中世の温暖期と呼ばれているものは極めてわずかな温度上昇しかなかった、としています。このデータソースは本書によれば、トンプソン博士の温度計だそうです。ソースはIPCCとなっていますね。
しかしそのIPCCのレポートにあるグラフを参照してみると、以下三つのグラフの中の(c)が該当するのですが、中世の温暖期には実際に温度が高かったことが伺えます。この両者の温度には随分乖離があることがわかります。
どちらが正しいのか、どちらも正しくないのかわかりませんが、このデータをもとに「今がこの1000年間で最も暑い」と言うには論拠が乏しいと思います。
地球が温暖化していること、その原因をCO2とみなすことの説明はこのあたりになるので、根拠としては頼りないのが正直なところです。
世界8割以上をカバー、温暖化対策の枠組み:パリ協定
2015年にパリで開かれた、温室効果ガス削減に関する国際的取り決めを話し合う「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意され、2016年11月4日に発行されたのがパリ協定です。その枠組みは一言で言うと、
2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みで。歴史上初めて,全ての国が地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減に取り組むことを約束した枠組みである。
外務省: https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.html
世界の温室効果ガス排出量の約86%、159か国・地域をカバーする枠組みであり、そのカバー範囲の広さから実効性が高いのではと注目されています。
以前の枠組み、「京都議定書」の反省
1997年に京都で開催されたCOP3にて採択され、2020年までの温室効果ガス排出削減の目標を定める枠組みです。しかし以下のような問題がありました。
- 先進国と開発途上国の二つに分け、条約上の義務等に差異を設けており、日本を含む先進国のみに削減目標に基づく削減義務が課せられた。しかし実際には中国・インドといった新興国でCO2排出量が急増している。
- 先進国のみにトップダウンで定められた排出削減目標が課せられるアプローチだったため、公平性と実効性に疑問がもたれていた。パリ協定では各国に自主的な取り組みを促すアプローチにより、達成義務ではなく、自主的に努力目標を策定、という手法を取った。
パリ協定の目指すところ
世界の平均気温上昇を工業化以前から2度以内に抑える
外務省: https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol150/index.html
というのが全世界で目指す目標ラインです。この実現のため、先進国・開発途上国の区別なく全ての国が削減目標を5年ごとに提出し、国内での実施状況を報告しレビューを受け,さらには5年ごとに世界全体での実施状況を検討します。このような透明性を高めて総合に睨みを利かせ合うような枠組みなのです。
実ビジネスでESG投資が加速
パリ協定、実際のところ義務があるわけでもなく、目標は自分で定める、と実効性はどうなのか?と思うのですが、実際には「ESG投資」の加速につながっています。ESG投資とは、
従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価していく概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会(オポチュニティ)を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されています。
経産省: https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.html
つまり、「地球環境を意識してビジネスしている会社に投資しよう!」ということなのですが、これは企業へのお金の流れが変わることを意味します。企業はボランティアではないので、儲からないことはしないというのがこれまでの常識だったのですが、それだけでなく環境や社会、カバナンスも考慮していないとお金が集まらない、すなわち事業を営めない、という新しい価値観が広まってきているのです。
パリ協定により、それぞれの国がこれから温暖化抑制策を打っていくことになります。そうなると、環境対策に対して補助金等の資金も得やすくなります。こうなると、温暖化対策自体がビジネスとなりお金が回るのです。
SDGs(持続可能な開発目標)が投資を呼び込む
では、具体的に何に投資すればいいのか、より良い世界を目指すための具体的な開発目標として国連サミットで2015年9月に定められたのが「SDGs」です。これは地球温暖化のみならずあらゆる問題を含んだ開発目標です。最近民間企業の方でも胸にレインボーのバッジを付けている人が増えてきたので、かなり認知度が上がってきているように感じます。その内容は、
2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
外務省: https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
この中で、地球温暖化に直接的に関わる目標を抜粋してみます。
7.2
2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大。7.3
2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増。7.a
2030年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率、および先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究および技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進。
9.4
2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を実施。9.a
アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラ開発を促進。
12.1
開発途上国の開発状況や能力を勘案しつつ、持続可能な消費と生産に対して10年計画枠組み(10YFP)を実施し、先進国主導の下、全ての国々が対策を講じる。12.2
2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成。12.5
2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減。12.6
特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取り組みを導入し、持続可能性についての情報を定期報告に盛り込むよう奨励。12.7
国内の政策や優先事項に従って持続可能な公共調達の慣行を促進。12.8
2030年までに、人々があらゆる場所において、持続可能な開発及び自然と調和したライフスタイルについての情報と意識を持つ。12.c
開発途上国の特別なニーズや状況を十分考慮し、貧困層やコミュニティを保護し開発に与える悪影響を最小限に留めつつ、税制改正や、有害な補助金が存在する場合はその環境への影響を考慮してその段階的廃止などを通じ、各国の状況に応じて、市場のひずみを除去し、浪費的な消費を奨励、化石燃料への非効率な補助金を合理化。
13.2
気候変動対策を国別の政策、戦略および計画へ盛り込む。13.3
気候変動の緩和、適応、影響軽減、および早期警告についての教育、啓発、人的能力および制度機能を改善。13.a
重要な緩和行動や実施における透明性確保および開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同動員、UNFCCCの先進締約国によりコミットメントを実施し、可能な限り速やかに資本を投下してグリーン気候基金を本格始動させる。
15.2
2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加。15.3
2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力。15.b
保全や再植林を含む持続可能な森林経営推進のため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための相当量の資源を動員。
温暖化関連を抽出 「18/169」
温暖化に関わりそうなところをピックアップしてみましたが、「18/169」個もありました。ざっくりまとめると、以下のようになるかと思います。
- エネルギーを再エネ由来にし、かつ効率的に使う
- 資源の利用効率を高め、持続可能なインフラ開発を行う
- 天然資源の管理と廃棄物・浪費の削減
- 気候変動対策を国策に組み込み、国民を啓蒙
- 森林を持続的に管理経営し、植林を増やす
- 上記達成のために相当量の投資を行う
これでも具体的かと言われるとまだ抽象度が高いですね。
SDGsの面白いところは、持続可能な社会に向けた目標でありながら、これを掲げることがビジネス上有利であり、ステークホルダーから評価されるようになってきていることだと思います。だからこそ、自分たちのビジネスが「SDGsのどの目標にあてはまるか?」ということを意識的に明示している会社が増えてきているように見えます。
まとめ
20世紀後半から、世界の発展に伴い、CO2が爆発的に増加、これに伴い地球が温暖化している、その啓蒙活動家の筆頭がアル・ゴアです。
国際会議を通して温暖化に対する地球規模での対策がこの20年議論されてきた中で、20年以降の枠組みであるパリ協定が採択されました。世界のCO2排出量の8割をカバーする国と地域が参加する枠組みで、各国が自主的に定めた目標を透明性高く監視し合う枠組みです。
パリ協定による国際的な合意形成が後押しし、環境に配慮した企業に投資しようというESG投資の流れが加速しています。こうして温暖化対策がビジネス的にも成り立つ環境になってきました。
ではどれだけ二酸化炭素を減らす必要があるのか?次はIPCCのレポートを読み解いていきます。
コメント
整理力、抜群。温暖化の説明の時はこの記事を直リンクで紹介させてもらいたいです。いいですよね?
ありがとうございます。もちろんです!