「語れるもので、日々を豊かに」という理念を掲げ、今では2%とごく僅かになってしまった純国産のアパレル産業を、工場直販という形で支えているファッションブランドがございます。
毎週見ているカンブリア宮殿に2016年に登場したことで私は知ることになったブランドなのですが、アパレル業界ではタブーな「作っている工場の名前を出す」ということをやっているためか、批判的な記事も散見されます。そこで今回は、クリーンなイメージのファクトリエが掲げる「適正価格」が真か嘘か検証してみたいと思います。
「適正価格」の意味
ファクトリエは、「中間業者を介さず、工場と直接提携して商品を作り、高品質な商品を適正価格で提供」ということを標榜しています。ここでいう適正価格のポイントとしては以下の2点が挙げられています。
- 使い手であるお客様から見たときに質に合った価格であること
- 作り手である工場から見たときに十分な利益を得られること
ではまず、アパレル業界のサプライチェーンを整理してみると、以下の図のようになります。工場とお客様のポジションから見ると、販売管理費を圧縮することが売価を下げること、原価を上げることにつながります。
これは販売管理費を増加させる要因になる中間事業者の存在が悪いということは全くないですし、彼らが担う役割は必要なものなため、テクノロジーやビジネスモデルの介在が必要不可欠なわけですが、販売管理費を落とすことが「適正価格」につながるということです。
一方で製造から販売まで一貫して行う量産ブランドが業界のトップに君臨しています。ユニクロやZARAが代表格ですが、サプライチェーンを垂直統合することで販管費を抑えつつ、量産することで原価も落とし、質が高く安い商品を世界中に展開しています。
量産とは違いますが、顧客との接点を生かしてブランドが直販するという意味では、ファッションにとどまらずD2Cも近年力を伸ばしています。
ではこれに対してファクトリエはどういったビジネスモデルなのでしょうか。
従来であれば、工場はデザインされた商品の製造に特化し、商品設計や販売は小売や商社、卸業者が担っていました。必要ではあったものの、これが販管費として重くのしかかってきていたわけです。工場毎にこれを構築するのはコストがかさみますが、多数の工場を束ねる&EC特化という形でファクトリエが介在することで従来の商社、卸業者、販売店が担っていた機能を代替し、かつ販売管理費の圧縮につなげているということがわかります。
つまりファクトリエは、下図のように、D2CやSPAに近いモデルでありつつ、工場主体で構成された事業モデルであることがわかります。こうした観点から、従来のビジネスモデルを破壊し、工場側とお客様にとってメリットがあることがわかります。
一方で、すでに販売管理費を徹底的に削減しているSPAと比較するとどうでしょうか。
サプライチェーンの構成面における優位性というのはないように思えます。比較してみると以下のような質的な違いがあり、そもそも優劣をつけてどちらがいい、と判断するようなものではなく、「どちらにもメリットがあり、ニーズに合わせて使い分ければ良い」ことがわかります。
つまり、SPAはボリュームゾーン量産により、コストと質を兼ね備えた商品を提供しているため、自分がほしいものとぴったりの商品があれば、これに越したことはないでしょう。
一方で、多様な製法や少量しか確保できない素材を用いた生産は、どうしてもコストがかかります。もちろんそれだけの付加価値があり、こうした商品をほしいという消費者も存在します。こうした商品は、それぞれのブランドが特定のターゲットに対してピンポイントで価値を提供しているわけですが、こうした非効率になりがちなスタイルを最大限効率化して提供しているのがファクトリエということです。
「適正価格」には十分な合理性があることがわかりました。
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