DXというワードが飛び交っている昨今、コロナ対応で給付金の遅れを筆頭に行政の対応が後手後手に回ったことで菅政権がデジタル化を大きな改革として掲げています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は「デジタルへの変換」が直訳なわけですが、それでは単なるデジタル化と一体何が違うのでしょうか。実際にはデジタル化=DXというように捉えられている場面が多いように感じます。特に今話題になっているような脱ハンコをはじめ、人間系で処理している部分をデジタルで行うことで「コスト削減」をしようという目的になっている部分が多いのではないでしょうか。
これ自体は非常に重要なことだと思いますし、行政改革としては大いにやってほしいことだと思います。先日、身分証明書を郵送で取り寄せるために、300円の証書を郵便局で買うために100円の手数料を払い郵送で書類を送ったのですが、なんていう非効率なことをやっているんだ、と呆然としました。
自分自身の全く楽しくない時間が浪費されているという部分以上に、郵便局の人の人件費、この書類が送られた後の処理にかかる人件費を想像すると眩暈がしてきます。こういう現状が目下あるため、まずはオンラインで行政手続きしようということに着手するのは納得がいきます。
翻って事業としてDXを推進していくということを考えたときに、果たしてデジタル化していくという発想でいいのか、なんとなく違う気がします。そこで最近話題になっている「アフターデジタル」を1と2の二冊読んでみました。
オフライン・オンラインが融合した世界観
非常に面白くて勉強になる内容だったので、以下に抜粋を掲載したいと思います。
乱暴なまとめ方をすると、DXを言い換えればそれは、オンライン・オフラインを意識せずにユーザー体験を設計していくこと、だと理解しました。
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る 藤井保文』
boompanchのレビュー – ブクログ
「オンラインとオフラインはもはや融合していて分けて考えるものではない、顧客はその時々で最適な接点を使うのであり、どちらも等しくある」というOMO(Online marges with offline)の考え方が主題の本です。
その舞台の中心は著者がビジネスをしている中国なのですが、アリババ・テンセントを筆頭に如何にOMOがビジネスの好循環を作っているかがわかります。
- エクスペリエンスと行動データのループを回す
- オフラインがなくなる、あらゆる接点でデータが取られ、常時オンライン接続。デジタルによるアップデートがかかる。
- ali pay, wechat payは中国の決済を完全に変えた。もはや現金で支払おうとするとお釣りがないレベル
- 昨今はオンラインでの顧客獲得単価が上がりすぎてリアルの方が効率的になることもある、顧客接点を得るための買収もある(例:もバイク)
- 信用スコアは、これまでまともな与信管理がなかった中国にとって救いの面が大きく、努力が報われる選択肢ができた。善行の蓄積が評価されるという認識が広まり、中国人のマナー向上にも繋がっていると感じられる。犯罪に近いことをしなければスコアが下がることはなく加点方式なのも特徴。
- didiはドライバー評価システムが秀逸、乗客が評価する仕組みにするとワイロが横行するため、ユーザー満足度を直接聞かずに計測している。ドライバーを4種のグレードを設け、評価が上がると上位の試験が受けられ、給料も上がる。徹底的な性悪説の秀逸な設計。
- 平安保険では医療プラットフォームに乗ってもらうために人を配置し、新たな人的リソースの使い方を提示している。徹底した顧客主義。
- エクスペリエンスと行動データのループが競争力の根幹、継続的な価値提供を行い顧客に寄り添えるかがカギとなる
- OMOビジネスの本質 <online merges with offline>
- アフターデジタルとは、リアル世界がデジタル世界に包含される図式。リアルがツールとなる。
- デジタルトランスフォーメーションは社会インフラやビジネスの基盤がデジタルに変容することを指している。
- 顧客はその時々で一番便利な方法を取るのであって、オンラインとかオフラインとか金が得ていない。顧客にとって必要な接点を揃える
- エコシステムの運用にあたり、各ステークホルダーのバランスが取れており、ロイヤリティがあることを大事にしている。これをNPSとして数値化し、全てのステークホルダーで均等になるように日々サービスの改善を重ねている
- 事例
- 自動車メーカーNIOの社長が展開するビットオート:あらゆるカーライフに関わるデータを高速低コストに取り込むエコシステムを形成し、相乗効果を生んでいる。
- アリババ傘下のフーマー
- 食品ECの倉庫に顧客がウォークインできる形式だが、スーパーマーケットでもあり、倉庫でもあり配送センターでもあり、レストランでもある。
- 注文後30分で届くオンラインが便利で使うが、意外に近くにあり生鮮食品の品質も直接確かめられウケている。
- 地域にあった商品展開、売れ残りはほとんどない。
- リテールテインメントという娯楽性も兼ねた小売、カニが泳いでいたり、配送レーンが見ていて面白いなど、体験の価値も高めている。
- 売上に占める実店舗割合は1割から始まり、時間の経過に伴って4割ほどで落ち着く。
- 膨大なアリババのデータが居住者の情報やどこに場所したら成功するか明らかにしている。
- ラッキンコーヒー:いい立地にイートインなしで持ち帰り及びデリバリーに特化して出店、チケット制で簡単譲渡したりお得になったりする。加えてどんな注文方法でも店舗側は順番通り作るだけ。オペレーションの楽さも重要。世界のスタバがOMOの世界では後塵を拝している。
- Jian24:顧客の行動データを取るためにカメラで構築した無人コンビニを運営している。彼らによれば属性データだけでは意味がなく、行動データが繋がって初めて意味をなす。何をすれば良くなるのか可視化されていることでゲーム性が増しモチベーションが上がる。
- その他
- データの取り扱いについて、公共財とする(中国)か私有財とする(EU)かが一つの焦点
- GDPRの背景としては、英銀行で銀行口座ポータビリティが始まり便利になった時にデータが流動化し、不正を防ごうとする狙いがあった。
- 深圳は、車で1時間の範囲にあらゆるレイヤーの製造メーカーがあり、爆速でものづくりが進むか。データを活用し、市場のフィードバックが反映される。
- IDと行動データに予約個別最適かと効率化がもたらされるが、それが当たり前になると差別化ができなくなる。その断面になると、くまもんのようなIPの力が生きる。
- 個別の人分析では足りない、特定の事象が人々に発生し、そこから派生した行動が終わるまでのモーメントを分析する。
boompanchさんの感想・レビュー
boompanchさんの藤井保文『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る 』についてのレビュー:...
『アフターデジタル2 UXと自由 藤井保文』boompanchのレビュー – ブクログ
アフターデジタルの二作目、コロナ後の状況を踏まえたアップデートが含まれている。
本作はよりOMOの実践的な内容でかつ世界にも視野を広げた内容になっている。
- アフターデジタル1の復習とアップデート
- 社会に還元して初めてデータを預けてくれる。
- スーパーアプリの要素は決済、移動、コミュニケーション。決済はトランザクションから与信に繋げている。
- フーマーは18年に2300億円まで行ったが、飽和したようで失速
- インドのGaaS
- デジタルIDを発行し、口座開設や携帯ゲット、身分証明、医療や教育を受けられるようにした
- オープンAPIの仕組みを作りビジネスプレイヤーを巻き込んだ。
- アメリカのD2C
- GAFAの台頭により、彼ら中間レイヤーを挟まない直販が伸びている。SNSで世界観を伝えられる。
- テクノロジーを駆使しつつも単なる製品販売から顧客との関係を構築し、バリュージャーニー型に転換している点は似ている
- 睡眠の質を上げることを掲げたCasperの新しいマットレスの売り方は世界観を売っている
- 中国の事例からの学び
- ECから始まったアリババとゲームが売上の多くを占め、全てをコミュニーケーション化するミッションを持つテンセントは目指すところが異なるため、同じようなサービスでも使い分けが起こる。
- 送金はテンセントだと受け取りが必要だが、ECから始まっているアリババにはない考え方
- 課題解決から入るアリババは、当社売り手と買い手の信用が無い中で仲介することで信用を作った。そこから決済を取るために、金利7%でまず預けてもらうことを行い、使い道を作るために加盟店を増やす、そのためにバーコードリーダーを無料で配った。
- ゲーム的なテンセントは中国のお年玉で、wechatから送れる機能を実装、グループに投下すると、早いもの順にランダムでお年玉を受け取れるようにしたところ大盛り上がりした。
- NIOは700万する会員チケットに車がついてくるイメージ、充電はパックごと交換、旅先ではフル充電の車がお出迎え
- ズールーはアパートをシェアハウス化したときの支払いの問題を解決したり、+8%で管理清掃してくれるサービスの提供でペインポイントを解決し、さらに宿泊用に貸したり、自社物件のホテルサービスも展開することでユーザーの住環境を多面的にサポート、長期で継続する関係性を構築している。
- 衆安保険は新時代の保険OEM、各社が飛行機遅延や偽物交換といったサービスを作りたいときにすぐに作れる。アリババ、テンセント平安保険の合弁。こういうプラットフォームもあり。
- デリバリーでラッキンコーヒーにやられたスタバだが、専用配達員を用意し、50円配達料が高いが、ですぐ届けるようにしたところ盛り返した。サードプレイスの定義をいつでもどこでもと捉え直したのではないか?利便性はコピー可能だが、ブランドは模倣できない。
- wechatの中のミニアプリという形で提供すると、アプローチできる範囲が広く、かつコストも安い。だからこそスーパーアプリの存在意義は大きい。
- 日本の遅れ
- やっていいことを決めるホワイトリスト方式が、やってはいけないことを決める中国、米国のブラックリスト方式に比べて圧倒的に遅い。
- 国ごとの違いとして3点あり、中国の事情としては、上述の国家運営体制のほか、経済構造(14億人といつ巨大マーケット、年収100万でも生活が成り立つからこその人件費の安いデリバリー)、文化背景(外食文化、年末の習慣)などがある
- アフターデジタルの産業構造は、決済プラットフォーマー-サービサー-メーカー
- 行動データのUX活用
- データはそれだけではお金にならない、ソリューション(解釈)とセットで初めてお金になる。
- 直感的に見つかるお金になる活用先はマーケティング、広告への利用、信用度を測る、交通や医療といったインフラ構築の材料
- 自社で取れるデータだけで十分な場合も多い、大事なのはエクスペリエンス×行動データのループで、データをUXに還元すること。
- アフターデジタルで提唱するDXとは、デジタルとリアルから得る膨大なデータを使い、体験提供をすることで新たな顧客との関係性を考える活動、UXの変革が中心。
- 日本の勝ち筋
- おもてなしの本質は、世界観を見せること by 星野さん。
- クリスプ・サラダワークスは繁盛する実店舗飲食店が多忙な点を問題視、本当に人が付加価値を埋めるコミュニケーションにフォーカスするためできるだけそれ以外をデジタル化した。結果売り上げが伸びプラットフォームとしてシステムの外販もしている。
- Amazonの置き配は、盗難とモラルハザードを実証で確認した上で実装しているが、まさにユーザー、配達員の利便性を向上させた画期的な取り組み。
- 世界観が共有された対話型組織で一人一人が自走しなければスピードが遅すぎる。それには世界観を発信する努力が必要、googleのTGIF、トヨタイムズ、書籍記事、zoom生配信など
- UX企画
- 世界観を作る、ビジネスモデルより先。こうすれば世の中をよくできる、こんなライフスタイルが素敵だろうといった共感や参画を生む提案。会社の系譜にあっているか?
- データは時系列で分析する必要がある、変化に注目: シーケンス分析。この時データから短絡的に施策を打つのではなく、なぜそのような行動をしたのかという理由と状況を考えて想像することが大事。集団として捉えていては見えてこない
- データに基づいてユーザーの状況を把握し対応する組織力が必要
- サービスビジネスでは、通常の期間損益の見方ではなく、顧客獲得コストをどのように売上で回収できているかというユニットエコノミクスが重要(18ヶ月以下が健全)
boompanchさんの感想・レビュー
boompanchさんの藤井保文『アフターデジタル2 UXと自由 』についてのレビュー:アフターデジタルの二...
アフターデジタルの中では、中国の事例が多く、「こんなに進んでるのか」と驚く一方でこれはそのまま日本には持ち込めない、と感じます。アリババ・テンセントのようにデータを牛耳るのは難しいですし、信用スコアのようなものは個人の信用がある中で必要せいも大きくないし馴染まないと思います。
一方でOMOというのがどういう状態なのかということをイメージするには非常に参考になります。フーマーのように30分以内に生鮮品を配送するスーパーがあったら日頃の買い物の仕方を大きく変えてしまうと思いますし、コーヒー屋さんもオンライン専用・リアル専用とわかれているよりもその時々の事情に合うように使い分けられる方が良いなとイメージできます。
とにかくビックデータを集めればいいわけではなく、ユーザー体験価値の向上に還元できるデータを集めるという意識も重要だと思いました。
既存ビジネスをどうデジタル化するのかを考えるのではなく、どんな体験をできたらわくわくするか、から着想し、それをオンライン・リアル・デジタルということを意識せずに融合させて実現していくということだと思います。
スケールフリーネットワークの形成がUX設計の基盤
アフターデジタルを読むきっかけになったのは、友人からの勧めと、1の著者の1人である尾原さんが出ていた東芝オンラインカンファレンス2020 (9/28開催) SESSION 2「デジタルの未来を、もっと、描こう。」を見ていて興味を持ったからでした。
この対談は非常に面白かったです。アフターデジタルの中でDX、OMOの概念はおぼろげながらイメージできるようになってくるのですが、この対談の中では、「では実際にデータを集めて循環するような仕組みってどうやったらできるんだっけ」という部分において示唆に富んだ話が多かったです。
それが東芝の島田さんの言う「スケールフリーネットワーク」という単語に現れていると思います。
引用元の記事を読むとわかりやすいですが、生活に密着する接点を通じて膨大なデータが集まるプラットフォームを作ると、そこに集まるデータのリンクの関係は上図右のようなスケールフリーネットワークになり、こうしたネットワークがイノベーションを生んでいく基盤になるというのです。
具体的な事例が対談の中で出てきていたのでメモを抜粋します。
- ウーバーは初期の頃ずっと底辺で這いつくばっていたが、いきなり爆発、これがスケールフリーネットワークの特徴。我慢が必要で、爆発までの間、這いつくばりながらも熱烈なファンもいた。
- Googleも最初は儲かっておらず、儲けようとすらもしていなかった
- スケールフリーネットワークには、大きなハブ同士をつなぐ変なやつがいる
- プラットフォームの前に人のスケールフリーネットワークが必要、共感して進んでやりたくなるような場を作る必要がある
- フォートナイトのような、ゲームの世界でライブやってしまうような世界を作るイメージ
- 東芝はこういった構想を元に場としてiflinkをやっている
また、上述のフォートナイトの部分で面白かったのは、プレステ➡アンリアルエンジン(ゲームを作るプラットフォーム)➡フォートナイト(ゲーム)、のようにプラットフォームの上にプラットフォームが形成されていく動きができているという話です。プラットフォーマーが一方的に設けるのではなく、プラットフォームに乗る方々も儲かるような設計ができると、末永く発展していけそうだと思いました。
GAFAを見ていて思うのは、自分たちだけが大きく儲かるような構造は歪が大きくいずれ崩壊する、関わっているステークホルダーみんながハッピーなエコシステム形成がかえって自分たちも恩恵が大きいと思いました。その点中国でこの思想が先行していると感じます。
島田さんは一回戦はGAFAに負けたが、リアルでの戦いになる二回戦でははるかに大きな規模での戦いになるので、ここをとれるかの勝負だとおっしゃっていました。ネットが発達してきたとはいえ、まだまだEC化率は低いのが現状です。
僕も二回戦勝ちにいきたい。
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