CX(コーポレートトランスフォーメーション)は大企業の変革の文脈でIGPIの冨山さんがよく語られています。先日もWEEKLY OCHIAIで以下のような番組がありました。
そしてタイムリーにコロナショックとつなげてコーポレートトランスフォーメーションにつなげる2冊の本を世に送り出されています。
コーポレートトランスフォーメーション、これはすなわちガラガラポンだと思っていますが、歴史ある大企業に在籍し、社内がざわつくくらいにはあがいてみた身としては、自浄作用では痛みを伴うような変革は起こらないと感じています。
だからこそ、コロナのような強烈な外圧がその原動力になりうる、ということを言っていると思うのですが、それでもなお、変化が起こる企業は少ないのではないかと感じています。
むしろ本気で変革する気があるトップが孤軍奮闘という場合は、「戦時(コロナ)だから」という大義名分を使うことで平時よりはムーブメントを起こしやすいのではないかと思います。コロナだから仕方ない・・・と。
追い風になるのは、変えようと本気であがいていた場合に限りましょう。
両利き経営でイノベーションを起こせ
停滞している大企業がなぜ停滞しているのかというと、稼げなくなってきたからの一言に尽きると思いますが、なぜ稼げなくなってきたかというと、既存事業の利益に頼っていて新しい付加価値を生めていない中、既存事業の利幅が減ってきたからということになると思います。なぜ付加価値を新しく創造できないのかというと、イノベーションすなわち新規事業が起きないから。
ではどうやってイノベーションを起こすのかということで、冨山さんが本の中で言っているのは両利き経営です。
日本企業は知の深化が得意で、製品のグレードアップによりより良いものを作っていくことで一時は一世を風靡したわけですが、一方でこれは分野が限定されてイノベーションを起こしにくい状況に陥ります(コンピテンシートラップ)。そのため、知の深化と同時に、探索も行い、イノベーションが起きやすい状態を作るすなわち両利き経営が必要だ、ということを言っているわけです。
ここでいう知の探索とは、認知の範囲の外に出ることを意味します。イノベーションの本質は新結合であるが、人組織はどうしても今認知できている目の前の知同士を組み合わせる傾向があるため、意識的に認知の外にあるものを探しに行く必要があります。
両利き経営は経営学者の入山章栄先生もよく言っておりますので、最近の著書に引用しておこうと思います。辞書並に分厚くてとても持ち歩く気になれない本ですが、本書の中では広範な経営理論の中の一部として両利き経営について触れられているので、また違った学びがあります。
両利き経営は新しい概念ではないですが、理屈はわかっていてもなかなかできない、そこに難しさがあると思います。
知の探索自体が難しいわけではないと思っています。最近はどの会社にも新規事業部というものは積極的にできているし、あんまり範囲を限定されず探索自体はできるようになっている気がするからです。
しかし探索してきて見つけてきたものに対して、それでじゃあ新たな付加価値を生むための実践をしよう!となるとそこには大きなハードルがあります。担当者が新規事業事業に始めて取り組んでいるとか、上手く行くかわからないとか色んな理由があると思いますが、厄介なのは「Why We?」に答えられないということではないでしょうか。
すべてを破壊する「Why We?」
「なぜ、うちの会社でその事業をやるんだい?」
これが新規事業のアイデアを殺す悪魔のコトバだと思っています。
これを言いたくなるお偉いさんの気持ちはよくわかります。きれいなストーリーが欲しいから、社内で説明するのに必要だから、悪気がないこともわかります。
しかしこれを言っていると、成功事例と名高い富士フィルムからの化粧品や医療機器の事業という”芽”は出てきません。説明しやすい、つまり本業と近い・シナジーが高い事業というのは、既存事業の延長線上で、同業他社でもできる・考えつくものであり、どちらかというと「知の深化」の領域に近くなります。
したがってこの質問はすべてを無に帰する可能性があります。
だからといって突拍子もなく「第二のFacebook」を作りますと言っても成功確率は極めて低いですし、筋の悪いアイデアに対してNO!と言えなくなるのも困ります。一体この境界はなんなんでしょうか。
自分がスタートアップへ行って本質的にスタートアップが得意なことを実感しているのですが、裏を返すと大企業でやったほうがいいことも見えてきました。その中で「Because we have seeds」が正しい答えだと思っています。
以前こちらでも触れました↓
Seeds立脚で考える
大企業からイノベーションが起こらないのはなぜかという文脈で、プロダクトアウトに考えすぎるからだ、というのがあると思います。マーケット・顧客のニーズから考えなければならない、ということですが、具体的なペルソナやマーケットから出発するのはスタートアップの発想だと思います。
大企業の強みは差別化できる固有のシーズを持っていることではないでしょうか。もちろんその中には、顧客との関係なども含みます。いずれにせよ誰もが持っているわけではない資産です。これが社内ではたいした技術だと思われていなかったり、何に使っていい技術かわからなかったりします。
したがって「知の探索」においては、まず①徹底的に自社の持つ技術を棚卸しし、その上で②全くの異分野においてどんな昇華先があるのかを探す、これが大事だと思います。
自分自身この①の部分をどれだけできていたのかというと甘かったのではないかと思いかえして自問しています。
また「特に技術とかないんだよなー」という場合で大企業であるのは、子会社の枠の中で考えている状態です。つまりグループ会社含めたトータルで見ると色んな技術シーズがあるのですが、そのグループの一分野で事業をやっている子会社の中だけで見ていると、すでに深化しきった技術で儲けている事業部であり、その技術は確かにその分野では稼げるほどだけど、競合他社も持っていてそれだけでは差別化要因になりえない、というようなことがあるからです。
したがって、技術シーズを見るときは、グループ全体に拡張して俯瞰的に見る必要があると思います。そう考えると、新規事業の組織というのはあまり小さい単位で多数作らないほうがいいように思います。もともと選択肢が少ない中で地の探索をするのは苦しいです。
そうやって、富士フィルムが化粧品・医療機器という分野を見つけてきたように、全く違う事業ドメインなんだけど、うちのこんな技術が生きてます、という説明ができれば、それは十分にWhy We?の回答になっているのではないでしょうか。
逆に言うと、こうやって新規事業の方向性を示してあげないと、探索する方も困ってしまう。なんでもOKはなんにもできないと表裏一体です。
これが大企業での両利き経営の目指す方向性ではないかと思いました。
大企業からスタートアップへ転職した著者が見たリアルについて様々な記事を書いており、以下はそのまとめページですのでぜひ御覧ください(転職について、組織論、マーケティング、ITなど)。
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