前回は以下の記事でプラスチック問題の前編として、そもそもどの程度使われているのか、ゴミ山問題や海洋汚染の実態はどの程度なのかなどについてまとめました。
今回はプラスチック問題をどう解決していくのか、リサイクルやリユースを掘り下げていくことで、問題解決の方法を考えていきます。
リサイクルの持つ意味
陸にも海にも大量のプラスチックゴミがあり社会問題化しつつあり、かつ一度環境に放出されてしまうと取り除くのが困難であることを前回取り上げました。これ以上放出しないようにする必要があり、如何にして資源を循環させていくか、すなわち循環型社会(Circular Economy)に向けた取り組みとしてリサイクルがあります。
3つのリサイクル
石油など限りある天然資源の消費抑制、環境への負荷をできる限り低減することがリサイクルの目的です。したがってリサイクルを進めるときには、リサイクルのために投じる資源や環境負荷を勘案しながら目的が果たされるか慎重に見極める必要があります。リサイクルには大きく三つの方法があります。(数値は日本での値です)
分類 | 内容 | 万トン | 割合 |
マテリアルリサイクル Mechanical Recycle | 再生利用 | 211 | 23% |
ケミカルリサイクル Feedstock Recycle | 原材料化、化学原料化 | 40 | 4% |
サ-マルリサイクル Thermal Recycle | エネルギー回収 | 524 | 58% |
リサイクル外 | ※82/128万トンは輸出 | 128 | 14% |
プラスチックリサイクルのいま より
リサイクルと言われて最初にイメージするのがおそらくマテリアルリサイクルです。代表的なものはペットボトルのリサイクルですが、これには回収しやすく価値が高いという理由があります。
- プラスチックと一口にいっても膨大な種類(代表的なポリエチレンからポリプロピレン、ペットボトル、塩化ビニル…)があるものの、同じ種類の材料でないとリサイクルできない
- ペットボトルは形状から分かりやすく、回収が容易
- ポリエチレンに比べ材料コストが2倍ほど高く回収する価値がある
基本的に廃棄プラスチックは汚れが付いているため、同じものにリサイクルしようとすると質が落ちるという問題があります。洗浄する工程があっても、です。
そのため、メカニカルリサイクルでは、ペットボトルの場合洗浄後細かくペレット状にし、その後短い繊維にされて軍手と言った別の製品に生まれ変わらせることが多いようです。
様々なプラゴミが混ざる家庭ごみと違い、産業プラスチックごみの場合は、同じごみが大量に発生するため回収しやすく、リサイクルが進んでいるようです。
一方ケミカルリサイクルでは、原料であるナフサから改めて製品を作るよりも、合成の途中段階まで戻すことで資源の節約を図ろうという発想です。こうして昨今はペットボトルからペットボトルを生むリサイクルも行われています。しかしながら、コストの高さもあり日本ではその割合は一部です。
プラスチックを燃やすのは悪いことか?
最後の一つサーマルリサイクルは、燃やしてその熱を利用しよう!というものです。欧米では、「燃やすのはリサイクルではない」と見なされているのですが、日本では上述のとおり6割が実際には燃やされています。
欧米から見ると、サーマルリサイクルは、材料として再利用されていないし、二酸化炭素の排出もしている、ということで否定的です。
二酸化炭素排出の観点を考える上では、プラスチックによってどのくらい石油が使われているか考える必要があります。以下のように輸入ナフサも含めた原油トータルからプラスチック材料になる分の割合は、5%しかありません。
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf
またプラスチック原料は大きな発熱量を持つため、燃やすと高いエネルギーを得られます。我々は電気を得るために化石燃料を燃やしているわけですから、プラスチックとして利用した後に最後はエネルギーとしても取り出せるというのは有用な使い方ではないでしょうか。
もっとも高い発熱量というのは、それに対応した焼却炉でないと対応できないこともあり、初期費用としての設備コストはかかります。日本には焼却炉が1103施設あり、この数は世界最多です。膨大な費用をかけて建設したわけですから、稼働すなわち燃やすごみを集めなければならないという事情もあります。
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf
一方で、原材料から製品製造を行うとコストは安いものの、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量は燃やすよりマテリアルリサイクルの方が少ないという研究結果もあり、環境負荷を考えるとマテリアルリサイクルが良いとするのは頷けます。
Fig.3 Energy consumption and emissions of CO2, Sox and NOx on each disposal or recycling
stage related to all PET bottle waste management alternatives.
http://www.ritsumei.ac.jp/se/rv/amano/pdf/2004ET-amano.pdf
Fig.4 Landfill mass weight on each PET bottle waste management alternative.
Fig.5 Overall cost covering each PET bottle waste management alternative.
http://www.ritsumei.ac.jp/se/rv/amano/pdf/2004ET-amano.pdf
以上を踏まえ、出てしまったごみをどう処理するかという観点で考えると、まずもって環境流出を防ぐのが第一であり、コストとのバランスを考えながら、各国、地域の事情に合わせながら、できるだけマテリアルリサイクルを考えつつサーマルリサイクルも許容して進めていけばいいのではないかと思います。ここを厳密に議論してコストかけていくよりも、もっとやるべきことがあると思いました。
一見良さそうだが注意が必要なオプション
リユース(再利用)
昨今はLCA(Life Cycle Assessment)を重視するようになってきています。すなわち、製品の資源採取から原材料の調達、製造、加工、組立、流通、製品使用、さらに廃棄にいたるまでの全過程(ライフサイクル)における環境負荷を総合して評価するということです。
先に見てきたようにリサイクルはエネルギーも使うし、使い捨て止めて繰り返し使えるものを使おう!という発想になります。この発送は間違いないのですが、LCAで定量的に比較してみると、思った以上に繰り返し使ってあげないと逆効果であることがわかります。
以下はレジ袋を使った場合と、マイバッグを使った場合のCO2排出量の比較です。
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf6.pdf
https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf6.pdf
このケースでは、マイバッグもポリエステル製なので、プラスチックではあります。また、繰り返し付ける丈夫なものということで、重さが10倍、CO2排出量は50倍もあります。
この場合、50回繰り返し使ってトントン、それ以上使って初めてマイバッグの優位性が出るということになります。なくしたり、数回使って汚して捨ててしまったりしたら逆効果ということになります。
生分解性プラスチック
自然界で分解されないのがいけないのであれば、分解される材料を使えばいいではないか、という発想で生まれたのが生分解性プラスチックです。
しかし分解されないこと自体が、プラスチックの耐久性が高い重要なポイントでした。つまり、これは寿命の短いプラスチックということになります。コストも高く、2~3倍のお値段がする割に性能が普通なプラスチックなのです。
これ自体が資源の浪費だと思えてなりません。
使用量を減らすのが最も重要
こうやって考えていくと、やはりそもそもの量を減らすことが重要だということがわかります。しかし日本の場合、ごみを出しやすくしている構造的な問題があります。一方個人レベルでできることとして最近提唱されている考え方として「5つのR」があります。
ごみ処理負担が自治体に寄っている
1995年に制定された「容器包装リサイクル法」により、容器包装のリサイクルが企業に義務付けられるようになりました。
- 企業がリサイクルをとりまとめる協会に委託料を支払う
- 消費者はごみを分別して出す
- 自治体は収集・分別してリサイクル業者に引き渡す
- 協会からリサイクル業者にリサイクル費用が払われる
自治体がごみから不純物を取り除き、運びやすいように圧縮し、保管する費用が年間2500億円、一方企業の委託料は380億円です。なぜなら企業が支払う委託料は実際にリサイクルされた量に対してだからです。加えてタダ乗り企業もいるとか。
「委託料が免罪符となりプラ容器を減らす圧力がない企業」「経済的にサーマルリサイクルが中心の自治体に乗る重いコスト負担」これらがプラごみを減らす努力を誘発しにくくしています。
「5R」という考え方
サンフランシスコにお住いの方が4人家族の家で年間わずか1Lにまでごみを減らした実践例が書かれた「ゼロ・ウェイスト・ホーム」そこで記されている考え方が、5つのRです。この本は単なるハウツー本ではなく、環境負荷やコスト、手間といった実用的な観点だけでもなく、生き方・Quality of Lifeの観点からごみと向き合う思想が表現されていて、非常に良い本でした。
以下が5Rの考え方です。
- Refuse
- 外でもらうあらゆるゴミのもとを出来る限り断る
(無料グッズの山、使い捨てプラ、ダイレクトメールなどなど) - そもそも受け取る量を減らし、意思表示をする
- 外でもらうあらゆるゴミのもとを出来る限り断る
- Reduce
- 量より質、量り売り
- 自転車、ハイテク機器、紙、過剰量や過剰サイズを選ばない
- 中古品売買、寄付
- 減らすものは快適さに応じて人それぞれなのがポイント
- Reuse
- 作られた製品の形で何度も使い最大限寿命を伸ばす
- 使い捨てから繰り返し使えるものへ(容器、バッグ)、シェアリング
- Recycle
- リサイクル自体が環境に負荷をかけるのでなるべくここまでの段階で減らす
- 地域により異なる資源回収制度に合った形で、金属やガラス、紙、天然繊維といった耐久性がありリサイクル可能な材質で作られたものを選択
- Rot
- コンポストで全て肥料化
- 木製製品など、堆肥化できて再生可能で環境に配慮して採取されたものを選択
日本では3Rという考え方が主流だったと思います。思想としてそもそもRecycleに至るごみを最小限にすること、そしてそれでも残るものはできるだけ有機物を採用し、コンポストという形で肥料にしてしまうというのが目からうろこでした。
5Rはこの順番が大事だということをこの図はよく表しています。
まとめ・考察
自然界で分解されないプラスチックごみが大量に放出されています。これを減らすためには、色んなアプローチがありますが、一長一短でこれさえやればいいという万能対策は今のところ無いようです。Refuse → Reduce → Reuse → Recycle → Rotに代表されるように、カスケードな対策で段階的に減らす努力が大切です。そしてこれは消費者である私たち一人一人の意思表示が製造サイドへの圧力となります。
一方で、先進国でせっかく涙ぐましい努力をしても主たる汚染源へのアプローチになっていないのではないかという疑問も感じています。CO2の排出は先進国の割合が多いですが、ごみ問題はアジアを中心とした途上国が震源地だからです。手法の是非はともかく、そもそもごみ処理のシステムがある程度確率されていて、環境流出ごみが少ないところにアプローチするより、世界一ごみが多い長江でごみ拾いするとか、そういう方が地球視点では効果的なのではないか、と釈然としない思いがしました。
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