私たちは、これまで石炭や石油、ガスを燃やすことでいつでも必要なときに電気と熱を手に入れてきました。これらの化石燃料は、遥か昔に地球に降り注いだ太陽光エネルギーを貯蔵してできたものです。
再生可能エネルギーである太陽光や風力エネルギーは発電量が安定しないため、他のかたちに換えて貯蔵しておき、必要になったら使うという新しい仕組みが必要です。
エネルギー貯蔵技術には、電気や熱の形にしておくもの、化学エネルギーのかたちにしておくもの、機械的な運動エネルギーのかたちにしておくものなど、様々な種類があります。
エネルギー貯蔵装置を中心に「同時同量」を実現するための「調整力」についてまとめます。
様々な蓄電池種類
繰り返し充放電できる二次電池にはたくさんの種類があります。その中でも最も汎用性が高く、モバイル端末中心に我々の身近な機械の電源を支えているのがリチウムイオン電池です。
以下の表で二次電池の違いをまとめていますが、数字の厳密性は問わないでください。例えばリチウムイオン電池一つとっても使う材料によって性能が大きく変わりますし、メーカーのカタログ値も大きく異なります。
厳密性を求めると細分化の際限がないので、あくまで電池ごとの特徴をつかむためのオーダー感を見て頂けたらと思います。
メインとなったリチウムイオン電池
二次電池は世界で10兆円ほどの市場です。その8割以上がリチウムイオン電池です。
その用途して一番大きいのはEVです。次いでモバイル端末のような小型の民生用、系統電力の調整力としてのESS(Energy Storage System)用途というのはわずかしかありません。これはまだまだ市場ができていないことを示しています。
リチウムイオン電池の特徴はとても使いやすくてバランスがいいことです。エネルギー密度が高いために電池を小型化でき、モバイル端末に入れても可搬性がいいですし、充放電効率もいいのでロスが少なく、メモリー効果も起きません。蓄電池種類にもよりますが、寿命の観点からみても、10年程度は使うことができます。
ESS用途で拡大していかない理由としてはコストが高いことです。逆に言えば既に伸びている分野は今のコスト感で採算が取れているということだと言えます。
下図がリチウムイオン電池のコストの内訳ですが、Profit Margin(利益)を除くと7割ほどが材料費になることがわかります。これはつまり調達力が物を言う世界であり、大量に作ることで初めて安く作れるようになるわけです。
大方の予測のようにこれからも右肩上がりで販売量が増えていけば、それに従いコストも下がっていくことになります。
リチウムイオン電池を中心とした蓄電池について非常に勉強になるサイトがあるのでご紹介しておきます。
その他に列挙した電池は、主にESS用途で、特定の条件下で有効なオプションになります。その特定の条件にフォーカスして列挙していきます。
古くから使われ、現在も活躍する揚水発電
揚水発電は水の位置エネルギーを利用した水力発電を逆手に取り、水をくみ上げることで水を高い位置に貯めることでエネルギーを貯める方法です。
しかしダムを建設できるところ、という立地の制約があります。それでも非常に安価で長寿命な蓄電池として機能しているため、建設が可能であれば第一オプションとして考えられます。日本でも、深夜料金が安い時間帯に水を高いところにあげておき、昼間電力需要が高い時に発電するという形で利用されています。
安価で大容量な蓄電池として現在も大活躍していますが、追加で蓄電池が必要となったときに選択肢として入りにくいのが実情です。
水力発電のメリットとデメット、日本における今後の展望などについては以下の記事でもまとめています。
安価で大容量向き、ただし高温キープが必要なNAS電池
日本ガイシが開発した、セラミックス技術を使った電池です。以前カンブリア宮殿で取り上げられていました。
NAS電池は、文字通り、負極にナトリウム、正極に硫黄、両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを用いて、硫黄とナトリウムイオンの化学反応で充放電を繰り返す蓄電池です。フォードが1960年代に開発した技術だそうですが、実用化できたのは日本ガイシだけだそうです。
大容量のコンテナサイズの規模で蓄電池を導入する場合、リチウムイオン電池より安価なため、ESS候補としては有力です。
単電池のショートにより発火事故が起こり、電池を全て回収、600億円の損失を出したそうですが、その後は事故を起こしていないようです。材料を見れば明らかですが、Naはそもそも自然発火する材料で扱いが難しいです。そしてNAS電池は常に300℃程度にキープし続ける必要があり、保守員も必要で扱いに注意が必要なことが課題です。
リチウムイオン電池と比べると、レート特性はよくありません。これは高出力が得意ではなく、長い時間かけて充放電するような用途向きということです。
安全で応答性の高い、レドックスフロー電池
大容量向きで、日本企業の住友電工が開発したもう一つの蓄電池がレドックスフロー電池です。
長寿命で応答性にも優れるため、系統用として有用なのですが、エネルギー密度が低く大きな土地を必要とします。また、レアメタルのバナジウムを使用するため、低コスト化に課題があります。
NAS電池と比べると安全性に関しては、不燃性の材料を使用しているため強みがあります。土地が広大でかつ応答性が要求されるような運用のESSで使えそうです。以下北海道で実施された60MWhという大規模な実証実験の資料ですが、応答性や寿命に関しての結果は良好に見えます。北海道で風力と組み合わせるような運用には効果的、あとはコストでしょう。
実証期間が2013-2018年なのですが、最終報告の報告書が見当たらず、メディアのPRも乏しいため、あまり注目はされていないようです。
普及の足音は遠い、機械式蓄電池
重量物を回転させ、その回転エネルギーとして蓄電するフライホイールや、空気を圧縮することで蓄電する圧縮空気電池といった機械式の蓄電池もアイデアとしてありますが、実用レベルまで達していないようです。
リチウムイオン電池が伸びている、つまりこれからもリチウムイオン電池のコストがどんどん落ちていく現状では、ここで勝負を挑んでいくのは難しいのではないかと思われます。
それでもスタートアップの動向を見てみると、以下のように面白い蓄電技術があるのでご紹介します。
Fly Wheel
フライホイールは回転系の慣性モーメントを利用した機構に用いられる機械要素のひとつです。慣性モーメントは周りにくさ、周っているときの止まりにくさ、と捉えると理解しやすいかと思います。
下図のフライホイールは円筒型の重量物で、回転しにくいのですが、エネルギーを投じて回転すると、慣性モーメントという形でエネルギーを貯めこめます。放電するときは、発電機をフライホイールの回転力で回し電気に変換します。
内部を真空にすることで回転時の空気抵抗を減らすことができます。ロスはモーターと発電機による変換効率と回転を支える軸受け(ベアリング)の部分の摩擦損失です。
構造は単純で、どのくらいエネルギーが残っているのかという残量の把握が容易です。
Gravity Storage – ENERGY VAULT
クレーンで重量物を持ち上げ、積み上げることで蓄電、持ち上げた重量物を下すことで放電という、位置エネルギーを用いた蓄電方法です。
アイデアとしてとても面白いです。何を重量物として用いるかという部分で、ここに廃材を用いることができると、ごみ処理の問題と合わせてメリットがあります。
Gravity Storage – Heindl Energy
地下を巨大な円筒状に岩石をくり抜き、これを下から持ち上げることで蓄電、そのエネルギーを開放することで放電、という位置エネルギーを用いた蓄電方法です。
アイデアとしてとても面白いです。今後GWh級の巨大なエネルギー貯蔵を超安価に行いたいというようなニーズが出てきたら可能性があるかもしれません。
今回は様々な蓄電池種類を見てきました。不安定な再生可能エネルギーの普及とEVの普及により、蓄電池のニーズが急速に高まっています。それぞれの蓄電池に短所や長所がある中で、バランスの良いリチウムイオン電池が注目されています。
大量生産に伴う価格低減効果で年々そのコストが下がっており、一番のデメリットであった高価という点が年々是正されてきています。こうなってくるとより他の蓄電池が追従していくのが難しくなっていくでしょう。
リチウムイオン電池の先には全固体電池が控えていますが、大型化が実現し、リチウムイオン電池を代替するまでには技術的ハードルが高く、少し先の未来になりそうです。
コメント
様々な技術がわかりやすく紹介されていて、これまた、使わせてもらえそうな充実ページですね。今後の進むであろう道の方向性、未来の予測をどう考えるのか、も聞きたいところです。